2021年正式に世界文化遺産登録を目指している「北海道・北東北の縄文遺跡群」について専門家委員会が2019年11月28日に開かれ、そこで専門家の意見として「北海道・北東北」より「北日本」の方がわかりやすいということで変更を検討することになったようです。
北海道・北東北縄文遺跡群は世界遺産登録で幾度かの予選落ち
致命的欠陥は「縄文遺跡は東日本全域にあるのに、なぜこの地域に限定するのか」という疑問に答えられていないことでした。縄文遺跡群は本格的な農牧畜をおこなわない狩猟・採集・漁労を基盤とした定住生活に顕著な普遍的価値があり、北海道・北東北の縄文遺跡群はそれを証明する無二の存在で、そこを登録の基準として主張しましたが、定住型の狩猟採集社会は、北海道・北東北に限らず、縄文文化全体の特質ということで説明不足とされてきました。結果、以下のような内容で「北海道・北東北の縄文遺跡群」が令和元年度の世界文化遺産推薦候補に選定されることとなりました。
縄文遺跡群の顕著な普遍的価値縄文遺跡群の顕著な普遍的価値世界遺産に登録されるためには、“顕著な普遍的価値”の証明が必要となります。縄文遺跡群の顕著な普遍的価値の証明について、「世界遺産条約履行のための作業指針」で示されている登録基準に合致する内容は、次のとおりです。
①北海道・北東北の縄文遺跡群は、狩猟・採集・漁労を生業の基盤に定住を達成し、成熟した縄文文化へと発展を遂げた先史文化の様相を伝承する無二の存在である。評価基準(ⅲ) 現存するか消滅しているかにかかわらず、ある文化的伝統又は文明の存在を伝承する物証として無二の存在(少なくとも希有な存在)である。
縄文文化は、縄文時代と同時期の世界の他地域とは異なり、本格的な農耕と牧畜を選択することなく、狩猟・採集・漁労を生業の基盤としながら定住を達成しました。先史文化としては世界史上極めて稀有なものです。
北海道・北東北には数多くの縄文遺跡が所在し、円筒土器文化や亀ヶ岡文化など、縄文文化を代表する文化圏が栄えた中心地域であります。中でも、北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群は、世界最古の一つである土器や漆器が出土し、また、精神文化に関わる土偶も豊富で、大規模な環状列石が集中するなど、縄文文化の特徴を強く裏付けており、物質的、精神的に成熟した縄文文化の発展を示しています。
また、縄文遺跡群の、集落を囲む濠や防御施設のない、協調的、開放的な社会の継続的な形成は、社会的に成熟した縄文文化の発展を示しています。
②北海道・北東北の縄文遺跡群は、約1万年間もの長期にわたり気候変動や環境変化に適応し持続可能な定住を実現した、自然と共生した人類と環境との関わり、土地利用の形態を示す顕著な見本である。評価基準(ⅴ) あるひとつの文化(または複数の文化)を特徴づけるような伝統的居住形態若しくは陸上・海上の土地利用形態を代表する顕著な見本である。又は、人類と環境とのふれあいを代表する顕著な見本である(特に不可逆的な変化によりその存続が危ぶまれているもの)。
縄文文化は、最終氷期から後氷期にかけての急激な温暖化によって生まれた、世界的にも希な生物多様性に恵まれた生態系に適応し、約1万年間もの長期にわたって持続可能な定住を実現しました。
ブナを中心とする落葉広葉樹が広がる自然環境に、クリやクルミ、ウルシなどの有用植物で構成する縄文里山と呼ばれる人為的生態系を成立させ、生業を維持してきました。それは、人間が自然を大きく改変し特定の作物の収量を確保する農耕や牧畜を生業とする定住とは異なり、縄文里山の成立による、持続可能で、自然資源の恵みを巧みに利用した定住を実現させたものでした。
また、集落遺跡は、住居、墓、貯蔵穴、祭祀空間、捨て場、道路などが計画的に配置されており、一定の社会的規制のもとに継続的に利用されたことは明らかです。
このことから、北海道・北東北の縄文遺跡群は、日本列島における先史文化に特徴的な、人類と環境の交渉と、土地利用形態を代表する顕著な見本であると言えます。(引用:「北海道・北東北の縄文遺跡群」ホームページより)
今後のスケジュール
・2020(令和2)年2月1日まで 国からユネスコ世界遺産センターへ推薦書を提出
・2020(令和2)年秋頃 国際記念物遺跡会議(ICOMOS)による現地調査
・2021(令和3)年5月頃 国際記念物遺跡会議(ICOMOS)による評価結果の勧告
・2021(令和3)年夏頃 ユネスコ世界遺産委員会において審議
名称は2019年のうちに決定し、政府が2020(令和2)年2月1日までに国連教育科学文化機関に提出する推薦書に明記される予定です。
ちなみに現在は「縄文―北日本の先史遺跡群」「日本列島北部の縄文遺跡群」など複数案が提示されているようです。北海道の文字が消えるのは残念ですが、何よりも登録されることが大事ですから、良い名称がつくことを期待しています。
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